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〔―――ファイズ! 聞こえますか、ファイズ!?〕 「むにゃむにゃ……いくら暑いからってかき氷ばっか食うなよ……」 〔ちょっと! 起きてください騎士ファイズ!!〕 「んぅ……うるせえなぁ、なんだよ人が気持ちよく寝てるのに」 眠りについてから約2時間後、もうひとつの目覚まし変わりとしていた声が脳に直接響いてくる。 シャッハ・ヌエラ……と思い出すのに2秒を要したがなぜか声が焦っているように聞こえる 別に起きてやる気はないのだが仮眠を充分にとったと考えて起き上がろうとする ついでに目が冴えたことを怒ってやろうと巧は地面に生えている草を押し潰すように手をかけた (ん……地面に草? なんでだ、俺はさっきまで……) 巧が寝ていた場所は小石こそいくつかあったが草が生えるはずがないコンクリートの道だった だが今は背中と掌に伝わってくる草と散らばった砂利の独自の感触がある 即座に跳ね起きた巧は周囲の状況を調べるがそこは先ほどまでいた場所とは違う 数歩踏み出した後に見下ろした風景、その中で特に目立つレールのようなものがとても遠く小さく見える 巧は今自分がいる場所が崖……山岳だということに気が付くのにさほど時間はかからなかった 唖然としながら周囲を再び見回すと何かが空中を飛び回っている。 それは小型の機械人形とも呼べる物体だが巧はそれに見覚えがあった。 「あれは前にカリムのやつが見せた……ガジェットドローンってやつか!」 〔ファイズ! 応答してください、ファイズ!〕 シャッハ・ヌエラからの念話が伝わってくることに今ごろ気付いた巧は頼み事を返事として返す 〔聞こえてるよ! それよりカリムのやつに繋いでくれ!〕 〔えっ……無理です、今カリム様は会談中で〕 〔そんなどうでもいいことは後回しだ! いいから早くしろ!〕 自分が見ているものを伝えるためにカリムに通信を繋いでもらおうとために慣れない念話で伝える。 言葉遣いがなってないと叱られたが只事ではないことを理解してくれたのかすぐに繋いでくれた さすがに『どうでもいい』と口にしたことは不味かっただろうが今はとにかく報告が先だ 自分がいた世界なら自己判断で出ていただろうがここは異世界、慎重にならざるを得なかった 〔カリム聞こえるか、巧……じゃなくてファイズだ。 カリム? おいどうした?〕 巧は念話で問いかけるが応答はない。繰り返し呼びかけるがやはり返事は返ってこない いつもはすぐに応答する違和感を感じた巧だが何度か呼び続けてようやくカリムから返事が来た。 〔カリム……おいカリム? どうした、聞こえてんだろ?〕 〔あ……ごめんなさい、気付かなかったわ〕 〔いや別にいい、それより話が……〕 『教会騎士団の調査部で追ってたレリックらしきものがみつかった!』 『……対象は、山岳リニアレールで移動中!』 巧がカリムに報告しようとした瞬間横から別の女性の声が割り込んでくる 念話とは違う……オルフェノクとしての超越感覚が魔力でさらに強化されているらしい。 耳に入ってくるこの声は聞いたことのない声が聞こえる……アクセントが妙だった。 なまっている、と言い表したほうが良いのかもしれないがここで言う事じゃない。 それよりも巧はその女性が言った『レリック』という言葉に反応する 聖王教会が捜し求めているロストロギアだと前に聞かされたことがあったのだ。 なおもその女性の声が耳の中に入り続けてくる 『内部に侵入したガジェットのせいで車両の制御が奪われてる』 『リニアレール内のガジェット反応は少なく見ても30体…… 大型や飛行型、未確認タイプもでてるかもしれへん』 (リニアレールってモノレールか? コントロールが乗っ取られたってのか……?) 巧が空を見上げると確かにガジェットドローンの群れが空中を飛び回っている 飛行型と聞こえたが名前通りほぼ自由自在に動いている 6分以上も飛び続けられなかった巧はその飛行能力に少しだけ嫉妬した。 〔カリム、取り込み中で悪いんだが……俺はどうやらそのリニアレールの近くにいるらしい。〕 機械にまで嫉妬するようになった自分を笑いながら巧はカリムに向かって念を放つ 視界に入ったレールの上を複数の車両を繋いだ列車らしきものが走っている 巧の魔力反応を調べたところ確かにガジェットとレリックに近い場所にいることを知った 〔どうしてそんなところにあなたが……まさか、また勝手に転移したの?〕 〔ああ……けどよりによってなんでここなんだ、偶然か?〕 〔それはまだなんとも言えないけど、調べてみたほうがいいわね。〕 〔ああ……で、どうする? おまえが決めてくれ、俺はおまえに従うから。〕 隣で自分の部隊にてきぱきと指示を出す女性――部隊長である八神はやてを見ながらカリムは悩んでいた “即戦力の隊長達は勿論、新人フォワードたちも実戦可能。予想外の事態に対応できる下地はできてる” 何が起きても大丈夫、はやてが口にした言葉を信じてはいたが機動六課はまだ設立して1ヶ月も経っていない 今から出動するとはいえ初出撃なのでやはりそれなりに時間はかかってしまうかもしれない その間にもし何か予想外の事態が起こったら……その可能性はできるだけ減らしておきたかった。 (それに私もそろそろ彼の実力を見ておきたい……危険かもしれない、けれど彼なら) 〔どうだ、決まったか?〕 〔ファイズ……お願い、できますか?〕 〔ああ、レリックってのを守るんだな? 俺も興味がでてきたぜ〕 どうやらカリムが伝えるはずだったお願い事は巧にはわかっていたらしい。 頼み事を聞き入れた巧は頷いて戦闘態勢を取ろうとするがカリムがそれを引き止める 巧にそこまで任せるには荷が重過ぎると感じ彼の負担を軽くすることにした。 〔それは今からそっちに来る機動六課の仕事よ、あなたはガジェットドローンをできる限り撃墜して!〕 〔わかった、本命の連中が来るまでの間に数を減らせばいいんだな?〕 〔お願いしますファイズ、もし彼らは来ないと思ったら……その時はお願いします〕 〔了解〕 〔……お気をつけて、巧さん〕 〔わかってるよ〕 カリムとの念話を終了させたのを確認し巧はデバイスを右手に握り再び戦闘態勢を取る。 自分が居る場所の周囲を飛び回ってるガジェットドローンを睨みつけながらデバイスを起動。 "Mode Set [Normal Faiz] Standing by!" 「よし、いいぜ!」 起動準備が完了したファイズメモリー――デバイス化したミッションメモリーを握り締め 天を突き上げるかのように高く掲げいつものように単純なキーワードを発する 「変身っ!!」 "Complete!" 言葉に反応し再び音声が鳴り響く。瞬間全身をほぼ黒で統一したバリアジャケットが巧に纏われ ファイズメモリーがバリアジャケットと融合し赤い光が彼を包みこんでいく。 胸部・膝・肘・手・足……より強固な防御力を必要とする部分は銀色に変色。 バリアジャケットに張り巡らされた赤いラインはフォトンストリームに似ている。 それを通路として巧の魔力が全身に行き渡りジャケットの能力を強化。 ――顔こそ仮面に覆われてはいないが、その外見は巧の記憶のファイズをほぼ再現していた。 自分の中の魔力を制御して空中を駆け抜け、飛行型ガジェットの一体に向かい突撃する。 突然のことに反応しそこなったそれに向かって繰り出した拳がそのボディを難なく貫通する。 さらに泳ぐように動いていたもう一体が巧の回転蹴りで形を歪ませ爆発し墜落していった。 巻き起こった爆風と火の粉が巧を包むがバリアジャケットの機能で熱は完全にシャットアウトしている 熱いのが大嫌いな巧にとってはこの機能はとてもありがたいものだった。 そして魔力反応をキャッチした周囲のガジェット群が一時的に巧をターゲットに定める。 (ざっと20~30か……これだけで終わるとは思えないが……) しかしそれでも巧は戦う事に迷わない。まだ魔法を使って1ヶ月だがやることはいつも決まっていた。 どのような力を持ったとしても目の前にいる敵を倒すという目的に変わりはない。 「付け焼き刃の魔法でも、やってやる……!」 巧がしなやかにかつ力強く右腕ごと手首を振り上げたのを合図に巧のデビュー戦の幕が上がる。 周囲に誰も味方がいないいつも通りの孤独な戦いに巧は挑む。 脅える自身を奮い立たせるような雄叫びが空気を切り裂き、聞く者のいない空一面に確かに響いた。 前へ 目次へ 次へ
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(またこの時間かよ……ったく起きにくいったらありゃしないな) 外から聞こえる小鳥の囀る声が目覚ましがわりとなり乾巧は深い眠りから覚める。 髪の毛を掻きながらなんとか目を覚まそうと身を起こす 大あくびをしつつも身体を少し動かして巧は完全に目を覚ますことになる。 もう寝ぼけて真理と啓太郎の名前を呼んでしまう癖は完全に直っていた。 でもなぜか嬉しくない、それどころかむしろ寂しくなっている自分に違和感を感じながら。 「ふぁ~あ・・・早起きなんて俺の柄じゃなかったんだけどな」 とりあえず巧は気にしないことにして独り言を口にしながら自然に話題をそらす ここに突然やってきたころはまるで全然起きれなかったが どうも最近は起きたくないのに起きている自分がいる 初めてこの変な建物にやってきたのがもう約1ヶ月ほど前になっていた。 カリム曰く"聖王教会"と呼ぶらしいがどちらにしろ縁があるとは思えない この荘厳で威圧的な建物に自然な流れで居付いていること自体がまだ信じ切れていなかった。 (慣れって恐いもんだな……慣れさせられたからさらに) 巧はここに来てからなぜかあらゆる意味で確実に強くなるために訓練を開始していた カリムは巧がギターと共に持っていたものを見て提案し その秘書が巧の訓練の監督として毎日ほぼずっと共に練習していた。 もっとも最初のほうはほとんどというか完全に強制されていたのだが…… 最初のほうは訓練の時間より言い争いの時間のほうが長いとさえ感じたこともある 『ダメですよ! 一日ごとに強くならないと騎士は名乗れません!』 『ったくなんで朝っぱらから訓練なんてやらなきゃなんないんだよ・・・』 『昼だと暑いから嫌だっていうから朝にやるんです!』 『あーわかったわかった! 声だけじゃなくて態度もでかいんだな』 『次にその言葉を口にしたらあなたを斬ります』 『積極的に人殺ししてんじゃねえ!』 冷静に考え直してみるとやはりいろいろと不味い発言を頻繁に繰り返しているようだ。 巧は訓練や特訓などということは大嫌いだが彼女達の気持ちを邪険に扱っているわけではない そして暇な時に調べてみてわかったことだがこの世界は巧がいた世界とはまるで違う “魔法”だの“管理局”だの過去の事件や古代遺失物……一言で表せば出鱈目。 異形(元は人間だが)の生物が自分以外にもいて日常で生活しているという現実を知っている巧。 そこで現実はほぼ必ず人間の想像を裏切るものだと知った。裏切られることに慣れている 巧ですらここで知ったことすべてが限りない空想だと妄想しそうになっていた。 だがそれがこの世界の現実だということを巧はすでに身を持って知っている。 (生きられる確率は上げておかなきゃな……こういう世界でもいつ死ぬ目に会うかわからねえ) 当初は特訓などというものに乗り気じゃなかった巧だが次第に真剣にやるようになっていく。 オルフェノクと戦ってきた間にその犠牲や巻き添えになって死んでいった人間達を見てきた巧。 命が消える瞬間をたくさん見てきた彼は『非殺傷設定』を信じ切ることができない。 そうしたからといって確実に死を免れることは決してないのだから。 そして巧自身も自分の寿命のこと以外で死ぬつもりなんて毛頭なかった。 少なくとも死に場所は選びたい、そしてここでだけは死にたくないと思っている だから巧はこの世界で……否、人生で初めて自分から外に出て自主鍛錬をすることにした。 とはいえ一人じゃやることは限られてるのでたまには勝手気侭に走ることに。 いつもは隣にうるさい修道女がいるため好き勝手に走ることすらままならないのだ。 だからいつもなら気がのらない走り込みも今日はいつもとまるで違って感じた 当てのない旅を続けていた巧の移動手段はもっぱら単車だったが 走るのも悪くはないと最近では感じている、疲れるのが唯一にして最大の欠点だが (……俺がここで暮らし始めてざっと1ヶ月か、結構早いもんだな) 巧は走ってる間にここに来てから起こったことを自分の中で適当かつ簡潔におさらいしてみる あの日から世話になり始めたカリム・グラシアとの初めての出会いは聖王教会の大聖堂 雪の降る街で寿命を感じ取りながらギターを弾いていた自分、 いきなり見たことのない廃墟に立っていたと思ったら再び赤い光に包まれる。 その後気が付いたらなぜかギターと一緒に聖王教会の外に倒れこんでいた 一時侵入者と間違えられ教会所属の騎士に剣を突き付けられたが 巧は身体に感じる違和感と限界まで溜まっていた疲労のせいでそのまま気を失ってしまい…… 気が付いたらいつのまにか聖王教会の中に入れられ冷えていた身体を温めるコーヒーを貰った。 それが悲劇とも喜劇ともとれる事件のきっかけとなってしまったが 「私はカリム・グラシア、聖王教会所属の騎士です」 「ふーふー」 「時空管理局の理事官もやっておられます」 「ふーふー」 「私はシャッハ・ヌエラ。修道女ですがカリム様の秘書もやってます」 「ふーふー」 「………あの、あなたのお名前は?」 「ふーふー」 「……ひょっとして、私が剣を突き付けたことを怒ってるんですか?」 「ふーふー」 「……………」 「ふーふー、ふーふー・・・ん? なんだもう話は終わりか?」 差し出されたコーヒーを冷ますことに集中していたので話をまるで聞いていなかったのが引き鉄 巧が口にした言葉が追い討ちに剣を突き付けた張本人、シャッハ・ヌエラが怒りに震えた。 怒髪天を貫くとは言葉通りで冷ましていたコーヒーのカップを口の中に無理矢理流し込まれ 「うぐぎゃああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」 ただでさえ熱に弱い巧は余りの熱さに耐え切れずコーヒーを吹き出してしまったそれをすんでのところで 回避した後呆気にとられたヌエラを突き飛ばし口を冷やすべき水を求めて外に飛び出す。 そして外で見かけた花に水をやるための水道から直接水を口に流しこんで事無きを得た。 もちろん仕返しとしていきなりかけつけてきたヌエラに向かって水を浴びせるのは忘れなかった。 (けどまさかあんなことになるなんて……あいつには悪い事をしちまったな) なんと巧が水を浴びせた相手は火傷と体調を心配してやってきたカリムだった。 しかも運が悪いことに水は全力全開で噴き出ていたので一瞬で水浸しにさせてしまい その温和そうな表情を不自然な笑顔で固めてしまったことに罪悪感を感じたが時すでに遅く。 カリムから発せられる押し潰されそうな重圧を巧は受けとめながら口にする。 「あー……悪い、大丈夫か?」 「ふふっ・・・・・・ふふっ、うふふふふふふふふふふふふ♪」 「お、おいおまえまさか……よせ馬鹿! やめろ!」 カリムも巧から水を放射していたホースを奪い取って巧の頭から全身に満遍なく水をかけ続けた。 この瞬間おとなしい人間ほど怒ったら怖いということが証明された。 なんとか振り解こうとしたが女とは思えないほどの力で押さえ込まれさらに放水される 真理みたいなある意味清々しい怒りとは違い何か気持ち悪いと感じる怒り。 言い様のない恐怖が心を満たすなか全身は水で満たされていく。 最後には口の中に水をこれでもかと流し込まれ半ば溺死寸前にまで追い込まれるという顛末。 結局その後はお詫びとして風呂と客室を貸してもらいその日は就寝。 翌日お互いが悪い事をしたと思っていたのか翌日きちんと謝り問題は解決したが いくところもなかった巧はそのカリムの提案で聖王教会に居付くことになった。 そういう理由もあって今現在、巧はカリムに極力逆らわないようにしている。 (……大人しそうな外見で油断させやがって、なんて凶暴な) 『俺にはわかるんだよ! おまえみたいなタイプはな、腹の中で何考えてるかわかんないんだ!』 巧と同居していた園田真理が以前付き合っていた木場勇治に発した言葉は完全に的を得ていた。 しかしあの時は何の確証もないどころか完全に口から出任せだった。 真面目に悩んでいるだけなのに勝手に嫌って偽善者と決めつけて…… ……心臓を突き刺し、身体を切り裂き背骨を折った瞬間の勇治のあの顔が脳裏に焼きついている 彼自身の剣を使い彼の命を奪った時の厭な感覚は未だ巧に纏わりついている。 『おはようございます、ファイズ。あなたのデバイスの調子はどうですか?』 『何を勝手に外に出て練習してるんですか、ファイズさん!』 カリム・グラシアとシャッハ・ヌエラからの通信が入ったのはその感覚に脅えていた瞬間だった。 ファイズと呼ばれた巧がどこからか取り出した小さなデバイス それは従来のデバイスに比べて非常に小さいがとても大きな意味のあるもの 『ファイズ? ……どうかなさいましたか、巧さん?』 「なんでもない。それとこいつは今日はまだ動かしてないからわからない」 木場勇治によって粉砕されたファイズギアの中で唯一残ったそれ ――かつてファイズフォンに装備させられていたミッションメモリーは 彼専用のデバイスと貸して再び巧に凄まじき力を与えている。 所持していた能力の記憶を凌駕するかもしれないその能力を巧は勘だけで感じ取っていた。 前へ 目次へ 次へ
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過去 から の 刺客(後編) ◆7pf62HiyTE 一方、そのシャーリーの動きは虚ろであり、真面目な話何処に向かっているのかもわかっていない状態であった。ヴィヴィオの声も届いてはいない。 彼女の頭の中では、ルルーシュ=ゼロをどうすべきかどうかの答えを未だに出せないでいた。それ以前の話だが未だにルルーシュをゼロだと認められないでいた。ゼロは天道では無かったのか? そもそもの話、シャーリーが天道をゼロだと思ったのは天道がゼロの仮面を持っていたからに過ぎない。ちなみに天道はゼロである事を否定していたがシャーリーはそれを全く信じなかった。 だが、その理屈で言えばゼロの衣装を身に纏っているルルーシュがゼロという事になる。シャーリーにとってあまりにも都合の良い話ではあるが、シャーリーとしてはルルーシュに自分がゼロだという事を否定して欲しかった…… しかし、ルルーシュは自分がゼロだという事を肯定した。それも仮面が無い以外はゼロそのものといえる遜色の無い言動を取った上で……ゼロを知る者が見れば誰が見てもルルーシュがゼロなのは明白だ。 それでもシャーリーは否定したかった……一番大好きな人を一番大嫌いな人だと、一番大嫌いな人を一番大好きな人だという事を……だが、 『偶然巻き込まれたとはいえ、君のお父上――ジョセフ・フェネット氏の命を奪ったゼロだよ』 『君には殺せない。私はルルーシュ・ランペルージなのだからな』 『それでも私を殺すというのなら、その時は相手になってやろう。全てが終わったその時に』 ルルーシュは自分がシャーリーの父を殺したゼロだと認め、更にシャーリーの知るルルーシュである事も認めた。そして同時に自分を殺す時は相手になると言ったのだ。 一番大嫌いなゼロを殺す―――一番大好きなルルーシュを殺す? 一番大好きなルルーシュを殺さない―――一番大嫌いなゼロを殺さない? 答えなど簡単に出せるわけが無いだろう? 故にシャーリーは彷徨っていた。 唐突ではあるが、ここである少女の話をしよう。 その少女はある少年に好意を寄せていた。その少年は一見クールではあるが目と足の不自由な妹を何よりも大事にしていた。 そんなある時、仮面の男によって少女の父親が殺された。少女は仮面の男を憎んだ……そして運良く仮面の男の銃を手にし彼を撃つ機会を得た。だが、そこで少女は仮面の男が好意を寄せる少年である事を知ってしまった。 その時その場にはもう1人仮面の男の正体を知った女性がいた。少女は少年を守るため、その銃でその女性を撃った。 その一件とある男の策略により少女の精神はボロボロとなっていく、そんな少女を救う為……少年は自分に関する記憶を消した……。 話はこれで終わりではない。それから約一年後、ある理由により少女と少年の関係はほぼ元通りに戻っていた。それこそ少女が少年の正体を知る前の頃に戻った様に…… 違う事は少年の家族が妹ではなく弟になっていた事、そして少年の妹が自分達から遠い世界にいるお姫様になっていた事だろう。 だが、その瞬間は突然訪れる。ある時、少女は真実を知る……いや、全ての記憶を取り戻したのだ。仮面の男の正体が少年であり、少女が少年を守るために女性を撃ち、お姫様が少年の妹である事等を……。 真実を知った少女は何が正しいのかわからなかった……そんな中で少女は高い所から落下しそうになる……だが、少年と彼の親友が少女を助けたのだ。 そのやり取りの中で少女は少年がたった1人である事を知った……そして、少女は少年を守り、少年の幸せを取り戻す為銃を手に取った…… 結末だけを言えばその直後少女は死を迎える事になる。しかし、最期まで少女は少年の正体を明かさなかったし、最期の瞬間には少年と話す事が出来た。きっと、その瞬間少女は幸せだったのだろう。 だが……この少女とシャーリーを同列に論じる事は出来ない。その少女とシャーリーの状況が異なっているから当然であろう。シャーリーがどういう選択を取るのかは誰にもわからない。 果たして、少女は手元にある銃を誰に対して、そして何の為に向けるのであろうか――― 【1日目 昼】 【現在地 G-7】 【シャーリー・フェネット@コードギアス 反目のスバル】 【状態】健康、深い悲しみと激しい混乱、ヴィヴィオを背負っている 【装備】浴衣、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼロの銃(10/10)@コードギアス 反目のスバル 【道具】支給品一式、デュエルアカデミア売店の鍵@リリカル遊戯王GX、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:みんなと一緒に帰りたい。 1.ルルを―― 2.ルルやスバルや六課の人(中でもヴィヴィオの為に優先的にフェイト)を探す。 3.もう1人いるなのはを探し、ヴィヴィオのママかどうかを確かめる。 4.ヴィヴィオを守る。 【備考】 ※六課がブリタニア軍の特殊部隊で、スバルはその一員だと考えています。ザフィーラを大型犬だと思っています。 ※プレシアはブリタニアの偉い人で、この殺し合いを開いたのは六課や日本人及びその関係者を抹殺する為だと考えています。 ※ヴィヴィオの境遇を自分と重ねています。 ※ここには同姓同名の別人がいると思っており、放送で呼ばれたなのはが別人の可能性があると考えています。 ※デュエルアカデミアを決闘の学校で物騒な所だと思っています。 ※ザフィーラが殺し合いに乗っているかもしれないと思っています。 ※駅を調べ終えました。 ガソリンスタンド、ホテル、映画館、デュエルアカデミア、病院をどのような道のりで調べるかは、まだ考えていません。 ※ルルーシュ=ゼロだと気付きました。 ※ルルーシュを殺すか許すかは、後続の書き手の方にお任せします。 ※シャーリーがどこに向かっているかは次の書き手にお任せします。 ※クラールヴィントは浅倉を警戒しています。 【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】疲労(大)、シャーリーへの心配、悲しみ、決意、浅倉に対する複雑な感情、シャーリーに背負われている 【装備】ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ 【道具】支給品一式 【思考】 基本:フェイトママや六課の皆と一緒に脱出する。 1.お姉さんを助けたい。 2.ヴィヴィオがんばる! 3.天道お兄さんを助けたい、浅倉お兄さんともお話したい。 4.フェイトママを探す。 5.ザフィーラ、どこに行ったんだろう? 【備考】 ※浅倉の事は、襲い掛かって来た矢車(名前は知らない)から自分を救ってくれたヒーローだと思っています。 ※浅倉をまだ信頼しており、殴りかかったのは何か理由があるのだと思っています。矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。 ※キングのことは天道を助けてくれるいい人だと思っています。 ※この場にもう1人なのはがいる事に気付いていません。 ★ ★ ★ ★ ★ スバルはデュエルアカデミアの近くを走っていた。先程、デュエルアカデミアに来たらしい少女を捜すために……。 スバルは丁度その時、デュエルアカデミアの中を調べていた。そして自分の調査範囲を調べ終えて上の方を調べている泉こなたか早乙女レイの手伝いをするか、下で見張りとして1人待たせているルルーシュの所に戻るかを考えていた。 そして少女の声が下から響いたためルルーシュの方へと戻ったのだ。事情はわからないものの、その時少女がここを訪れたもののルルーシュと何かあったらしくそのまま去っていったらしいという事は把握出来た。 もっとも……ルルーシュに何があったのかを聞こうとしてもルルーシュは詳しい事を話してくれなかったが。 どちらにしても、放っておくわけにはいかないため。スバルは外へ出てその少女を捜しに出たのである。 さて、スバルが下に降りた時点で既に来訪者が去った後だったし、前述の通りルルーシュが詳しい事を何も話さなかったため誰が訪れルルーシュと何があったのかはわからない。 しかし、彼はその時悲しそうな顔をして独り言の様な事を言っていた。たったそれだけだったが、スバルにも誰が訪れ何が起こったのかをある程度推測出来た。 結論から言えば訪れた人物はルルーシュにとって親しい人物だ。親しくない人物だったら、この状況において何があったのかを自分達に話さない理由は無い。 また、悲しそうな顔をして何かを言っていた事から、その少女に対して何か……少なくても良くはない事があったのだろう。これもルルーシュと全く関係ない人物ならばやはり悲しそうな顔をする理由は全く無い。 そして、ルルーシュの関係者でそれに該当する人物は1人だけ……シャーリートという事になる。 つまり、デュエルアカデミアにシャーリーが来たもののその時ルルーシュと何かがあってシャーリーは去っていったという事だ。少なくとも戦いの音はしなかったから戦闘にはなってはいないだろうが……。 とはいえ、何かがあったのはわかっても何が起こったのかはわからない。スバルの知る限りシャーリーはルルーシュと同じ学校に通う普通の学生としか聞いていないからだ。 真面目な話、ルルーシュから詳しく追求すればわかるだろうが、スバルはどうしてもその事について踏み込む気にはなれなかった。 あの時見たルルーシュの悲しげな表情を見て聞く事など出来なかった……いや、正確に言えば『ここにいるスバル』がその事を聞いてはいけないと思っていた。 『ルルーシュの世界にいるスバル』ならば悲しみに暮れるルルーシュの支えになり、助ける事が出来るだろう。しかし、『ここにいるスバル』にはそれは出来ない。 幾らルルーシュが自分の事をルルーシュの世界にいる自分と変わらないと言っても、外見・性格・能力等々が全て変わらないとしても別人でしかないのだ。代わりになんてなれるわけがない。 それでも、ルルーシュの為にも、ルルーシュの世界にいるであろう自分の為にも、今の自分が出来る限りはルルーシュを助けなければと思っていた。 ルルーシュの事情には踏み込む事は出来ない……だが、だからといって去っていったシャーリーらしき少女を放っておいて良い事にはならない。何とか彼女を保護しなければならないと考え、スバルは外を捜していた。 ただ、シャーリーだった場合はまたシャーリーを傷付けてしまいかねないと考えていた。 シャーリーから見た場合、今現在生き残っている知り合いはルルーシュとスバルだけ、だがここのスバルはシャーリーの知るスバルとは別人だ。出会えばすぐにその事はわかる、それを知ればシャーリーが落胆してしまうのは言うまでもない。 とはいえ、何の力のない一般人のシャーリーを放置出来るわけもない……その事が気にかかるもののスバルはシャーリーを捜していた。 結論から言えば彼女を見付ける事は出来なかった。既にデュエルアカデミアから遠く離れてしまったのだろう。 もう少し範囲を広げて時間を掛ければ追いつけるかもしれない。しかし、デュエルアカデミアにはルルーシュ達戦闘に向かない仲間がいる。 リインフォースⅡもいて、多少の武器はあるとはいえ赤いコートの男の様な参加者に現れれば全滅は確実。故に、シャーリーが気にかかるものデュエルアカデミアに戻り、最後にその周囲を捜してルルーシュの所に戻る事にした。 正直な所、他に戦える仲間が無く、同時に相棒とも言うべきマッハキャリバーが無い状況がもどかしかった。一応手元にはレヴァンティンがあるから戦えるものの万全とは言い難い。 スバルが自分の戦い方をするにはやはりマッハキャリバー、もしくは姉であるギンガの持つブリッツキャリバーが欲しい所だ。恐らく2つとも誰か別の参加者の手元にあるだろうが……流石にそう簡単には戻って来ないだろう。 それに、後々複数の行動を同時に取る必要が出てくる。それに対処するためには戦える仲間が必要だ。仲間がいればスバルが戦いの場に向かい、もう1人がルルーシュ達を守る。もしくはその逆を行う事が出来るからだ。 「フェイトさんかギン姉辺りと合流出来れば良いけど……」 そう考えながらアカデミア周囲を捜していると、ある人影が見えた。 「あれ……?」 その人影は建物にもたれ掛かり座り込んでいる様に見え、すぐ前には何か黒い塊が落ちていた。最初は誰なのかわからなかったがその人物に近付いていく内にそれがわかっていく。 その人物は小柄な身体で銀色の髪をしていた。大分焼けてはいたもののその少女が元々身に付けているコートも彼女は身に付けていた。 何故か服装がレオタードだったりトレードマークとも言うべき眼帯が無くなったりしていたが間違いなく彼女はスバルの知る人物だった。 彼女に何が起こったのかはわからない。だが、スバルから見ても彼女が重傷なのは間違いない、スバルはその少女に声を掛けた…… 「チンク……?」 ★ ★ ★ ★ ★ ルルーシュは1人、スバルが戻るのを待っていた。 あの後、スバルはシャーリーを捜しに外へと出て行った。スバルの性格を考えるならば出て行った参加者を放っておかなくて当然だ。ルルーシュはスバルを止めることなく待っていた。 恐らく、スバルはシャーリーに追いつき彼女と共に戻ってくるだろう。そして、シャーリーは自分に対して決断をするだろう。 その決断がどんなものであれルルーシュは受け入れる覚悟はある。シャーリーが自分を許さず銃を向けるとしても、自分を許すとしてもだ。 しかし、その答えが何であったとしても全ての決着はこの殺し合いが終わり日常へと回帰した時だ。まずこの殺し合いから無事に脱出しなければならない。 その為にルルーシュは思考する。シャーリーとの再会で得た大きな情報、その事について考えなければならないからだ。 その情報は『参加者は異なる時間軸から呼び出されている』というものだ。 ルルーシュはシャーリーに対し自分に関する記憶を全て消した後から来ており、一方でシャーリーは自分に関する記憶を消される前から来ている。つまり、時間のズレがあるという事だ。 思い返せばその事に気付くチャンスはあった。それが先程の情報交換でリインから彼女のいた世界についての情報を聞かされた時の事だ。 リインのいた世界では地球に怪獣ゴジラが現れ、それを封印するためヴォルケンリッターが妖星ゴモラの媒介となり、ゴジラを抹殺する為、機動六課が中心となりオペレーションFINAL WASを行おうとしていた。 更にリインによるとナンバーズはスカリエッティによって対ゴジラの決戦兵器に改造されているという話だった。 あまりにもルルーシュやスバル達の世界との差異が大きかったためルルーシュ達は当然この世界も自分達の世界とは違う並行世界だと解釈していた。 だが、実を言えば見落としてはいけないポイントがあった。リインの話ではゴジラが現れたのはJS事件から暫く経った後で、ゴジラを封印してからも大分時が経過していたという話だという事だ。 一方のスバルもJS事件後から連れて来られているがそれ程間は開いていなかった。つまり、時間軸のズレを見付けられるということだ。とはいえ前述の通りリインの世界との差異が大きかったため時間軸については深く考えていなかった。 何にせよこれまでは時間のズレには気付けなかったがそれがわかった今、これは重要な意味を持つ。それは時間軸のズレによって変化している関係があるからだ。それこそルルーシュとシャーリーの様に。 そこでルルーシュは時間軸の違いを考慮に入れ自分達の知り合いとの人間関係を考えていく。 まず、ルルーシュについてだが、シャーリーを除くと後はC.C.だけだ。C.C.との関係については殆ど変化が無い為、C.C.がルルーシュと出会う前から来ていない限りは考慮に入れる事も無いだろう。 次にレイについてだが、彼女の話を聞く限りは万丈目準が洗脳されているかどうか以外の影響は無いだろう。続いてこなたについてだが、これも彼女の話を聞く限りは多少のズレがあってもやはり影響が無いだろう。 問題はスバルの仲間達についてだ。この部分こそ考慮に入れなければならない。 そう、JS事件ではナンバーズやルーテシア達がスバル達と敵対していた。故にJS事件終結前から彼女達が連れてこられている場合は殺し合いに乗っているかはともかく彼女達がスバル達と敵対する可能性があるという事だ。 少なくてもディエチはJS事件後から連れて来られている事がわかっているが、チンク達もそうである保証は全く無い。 (いや、むしろ誤解させて殺し合いを促進させるならば……) そう、異なる並行世界や時間軸をずらせばそれによって誤解を生じさせ、殺し合いを促進させる事が出来る。 何しろ自分の知り合いだと思っていた人物が自分の事を知らないとなれば誰でもショックを受ける。ルルーシュ自身スバルが自分の世界のスバルとは別人だと知った時は悲しみを感じたのだから。 故に、時間軸のずれが生じている可能性は高いとルルーシュは考えていた。つまり、クアットロやチンクがJS事件前から連れて来られていてスバル達と敵対している可能性があるという事だ。 では、仮に彼女達がスバル達と敵対するならばルルーシュは彼女達を倒すつもりなのか? 結論から言えば、最悪の場合であればそうするだろうが、少なくても現状それを諦めるつもりは無い。確かにルルーシュは目的の為ならば非情な決断をする事が出来る。しかし、親しい人物に対してはそこまで非情な事が出来る人間ではない。 ルルーシュの友人に枢木スザクという少年がいる。だが、彼はランスロットを駆りゼロ……ルルーシュに対する最悪の敵として立ち塞がってきた。 しかし、ルルーシュにはギアスという絶対遵守の力があった。それを使う事でスザクを自分の味方にする事だって出来るはずだった。だが、ルルーシュは決してギアスを使ってスザクを味方に付けようとはしなかった。 その最中、ある時ブリタニアがスザクを捨て駒にしてゼロを倒そうとしたが、その場を切り抜ける時にルルーシュはスザクにギアスを使った。そのギアスは『生きろ!』というものだった。 それによりその場を切り抜ける事が出来たが、ルルーシュとしてはスザクには使いたくはなかったと思っていた。 スザクの例を見ればわかる様にルルーシュは親しい人間に対してはそうそう非情にはなれないのだ。 さて、ルルーシュがこの殺し合いで最初に出会ったのはディエチだ。お互いの守りたい人物を守る為に2人は手を組んだ。しかし、ディエチはルルーシュを助ける為に犠牲となった。ルルーシュに姉達の事を託して…… チンク達を見捨てるという事は自分を助ける為に犠牲になったディエチを裏切るという事だ。ルルーシュは命を賭して自分を助けてくれたディエチを裏切るつもりはない。 だからこそ、ルルーシュは仮にチンク達が敵に回ろうとも出来うる限りは彼女達も助けようと考えていた。それがディエチを犠牲にして生き残ったルルーシュのすべき事なのだから。 とはいえ敵に回った場合の事もある程度は考えており、その時についての警戒を怠るつもりは全く無い(スバル達の話からクアットロは敵に回る可能性がある事を聞いているのもあるので)。 何にせよ、行動を起こすのはデュエルアカデミア内部を調べ終えた後……時間にして恐らく次の放送後だろう。 そう考えていると、自動ドアが開く音が聞こえた。誰か来訪者が来たのだろう、敵の可能性もあると考えルルーシュは身構えた。しかし、結論から言えばやって来た人物はスバルだった。 見たところシャーリーは連れて無かったが、その代わりスバルは1人の少女を抱き抱えていた。 「スバル……彼女は……」 ★ ★ ★ ★ ★ エントランスにはルルーシュとスバル、そしてスバルが連れてきたチンクがいた。チンクは負傷のせいか気絶しているようだった。ルルーシュ達にとって戦力的な面も含めてチンクは合流しておきたい人物だったが、正直な所素直に喜べる状態ではない。 まず、チンクは両腕を失う程の重傷を負っていたという事だ。チンクの前に落ちていた漆黒の塊は彼女の片方の腕なのだろう。全身に火傷を負っていた事を踏まえ、炎による攻撃に焼かれたのは容易に想像が付く。 ちなみに、保健室に向かわずエントランスにいるのは、未だ中を調べているこなたとレイと行き違いになるのを避ける為である。 さて、喜べないもう1つの理由はここにいるチンクがどのタイミングで連れて来られているかがわからない為である。 ルルーシュはスバルが戻ってきた際に参加者が連れて来られている時間軸の際について説明を行った。とはいえ、シャーリーの事は説明せず、リインの連れて来られた時間から説明をした。 スバル自身それを聞かされた時は驚いており、出来ればこなた達からも話を聞いて確かめたがっていた。 ひとまずは2人が戻ってくるのを……と思っていたもののある『物』の事を思い出し、まずは『それ』から確認を取る事にした。それはスバルの手にあるレヴァンティンである。 レヴァンティンから話を聞いた所、スバルのみならずルルーシュも驚く可能性が明らかになった。それはシグナム達が主であるはやてを救う為闇の書のページを蒐集しようとしており、同時に管理局とも敵対していた時期から連れて来られている可能性である。 スバル自身も確かにシグナム達がなのは達管理局と敵対していた時期があるのを把握している。だがそれは確か10年ぐらい前だったはずだ。真面目な話そこまでの差異が発生するとは思えなかったが…… しかし、その時期からシグナム達を連れてきたならば誤解の種や殺し合いの促進に貢献するのは間違いない、プレシアが殺し合いを望んでいるなら仕掛けている可能性は高いとルルーシュは判断した。 となれば、参加者間では10年の時間軸の際が発生している可能性を考慮した方が良いだろう。 ちなみにレヴァンティンとしては出来ればはやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラと合流したいと話していた。本音を言えばシグナムと合流したかったそうだが…… 勿論、スバル達の話は聞いていた為、レヴァンティンは参加者が異なる並行世界から連れて来られている事も把握していた。正直、リインの世界の話を聞いて複雑に思ってはいたが……。 ともかく、これにより先程ルルーシュが考えた以上に厄介な事になった。何しろ10年前から連れて来られている参加者がいる可能性があるとなるとスバル達を知らないという自体もあり得るからだ。 更に言えば、極端な話なのは達も10年前から連れて来られている可能性もある。こうなると仲間との合流は更に面倒になる。 そんな中、スバルの口からまたしても悪い事が語られる。それは、ギンガがJS事件の際に操られ敵として立ち塞がって来た事だ。つまり、そのタイミングから連れて来られてきたならばギンガも敵になるということである。 仲間だと思っている人物が敵になっている可能性があるということでスバルの表情は重くなっていた。とはいえ、現状ではそれを頭に入れておいておく他はない。ひとまず今はチンクの事を考える。 「チンク……どのタイミングから来たのかな?」 「話を聞いてみないとわからないが……どちらにしてもこのままにはしておけないだろう?」 チンクがJS事件終結前に連れて来られている可能性もあるし、そうでないとしても単純に殺し合いに乗っている可能性はある。だが、どちらにしても2人の考えは変わらない。殺し合いに乗っているなら止めるし、殺し合いを止めるつもりなら助けるつもりだ。 それに、今のチンクは両腕を失っている。この状態でもルルーシュやこなた辺りは倒せるだろうが少しでも強い敵が現れればまず戦えない。それ以前にここまでボロボロになった彼女を放置する事など2人に出来るわけがない。 真面目な話、恐らく両腕を失った事で精神的にも絶望している可能性は高い。何しろルルーシュも片腕を失った事でナナリーの為に戦う事が出来なくなって絶望していたのだ、チンクだって戦えなくなれば同じ様になる可能性はある。 一応スカリエッティのアジトに行けば治せるという可能性もあるだろうが、両腕の欠損までどうにかできるとは思えないし、何よりここからアジトまでは距離がある。正直な話現実的ではない。 「とりあえず、持ち物でも調べておくか」 ひとまず、チンクの目覚めを待つ間に彼女の持ち物を調べる事にした。スバルがチンクの持つ2つのデイパックの中身を調べていく……すると、 「ちょ……!」 スバルが驚愕の表情をした。 「どうした?」 「これ……」 ルルーシュがデイパックの中を覗くとそこには人間の右腕があった。 「な……」 「どうしてチンク右腕なんて入れているの……?」 「いや、待て……この腕は……俺のか?」 ルルーシュはその腕が病院で切り落とされたはずの自分の右腕だとわかった。 「ちょっと待って、それじゃあ……」 「ああ、チンクは病院に行ったということになるな、そこでこいつを拾ったと……」 「何考えて右腕なんて拾ったんだろう……」 その一方、再びデイパックの中を探る。といっても中にある物で使えそうな物はそう多くはなかった。 気になったのは2つ……1つは1枚の名簿……正確にはその裏に書かれているグループ分けされた人物である。それをルルーシュは見る。 「……どういうことだ?」 真っ先に頭に浮かぶのは疑問。エリオとキャロの名前はあるのにスバルの名前が無い事、またエリオとキャロが保護対象になっている事、何故かこなた達の名前がある事、そして十代が要注意人物にされている事、様々な疑問が浮かんでいった。 この内容をそのまま鵜呑みにするつもりは無いが、無視出来る話では無いだろう。 そして、もう1つは2個あった首輪である。チンクが参加者を殺して手に入れたか、死体の首から手に入れたかの判断は付けられないが、恐らくは病院で手に入れたのだろう。 正直、ルルーシュ達も首輪を何処かで手に入れたかったので丁度よかったとは思っている。その首輪をスバルが確かめる。 「裏に名前があるよ……ミリオンズ・ナイブズ……」 「確か奴は最初の放送で呼ばれていたな……だとしたらもう片方は……」 ルルーシュはもう1つの首輪が誰のものかを考えた。病院を訪れたのならばディエチの物である可能性がある。チンクがディエチの首を切り落とした……そんな光景が頭をよぎる……と、首輪を調べているスバルの表情が固まった。 「どうした?」 「そんな……まさか……」 スバルは信じられないような表情を浮かべていた。 「……さんが……死んだなんて……」 スバルは首輪を落とした。それをルルーシュが拾い裏を確かめる。そこには――― ―――「No.49-フェイト・T・ハラオウン」という文字があった――― 【1日目 昼】 【現在地 G-7 デュエルアカデミア1階】 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】疲労(中)、全身に火傷、両腕欠損、絶望、気絶 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖-、シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA s、 被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(フェイト(StS)、ナイブズ)、 大剣・大百足(柄だけ)@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、ルルーシュの右腕 【思考】 基本:姉妹と一緒に元の世界に帰る。 1.……(気絶中) 2.どうしたら良いだろうか……? 3.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器、レリック、“聖王のゆりかご”の確保。 4.ディエチと共闘した者(ルルーシュ)との接触、信頼に足る人物なら共闘、そうでないならば殺害する。 5.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除。 6.十代に多少の興味。 7.他に利用出来そうな手駒の確保、最悪の場合管理局と組むことも……。 8.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲。 9.天上院を手駒とする。 【備考】 ※制限に気付きました。 ※高町なのは(A’s)がクローンであり、この会場にフェイトと八神はやてのクローンがいると認識しました。 ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました。 ※大剣・大百足は柄の部分で折れ、刃の部分は病院跡地に放置されています。 ※なのは(A’s)と優衣(名前は知らない)とディエチを殺した人物と右腕の持ち主(ルルーシュ)を斬った人物は 皆同一人物の可能性が高いと考えています。 ※ディエチと組んだ人物は知略に富んでいて、今現在右腕を失っている可能性が高いと考えています。 ※フェイト(StS)の名簿の裏に知り合いと出会った人物が以下の3つにグループ分けされて書かれています。 協力者……なのは、シグナム、はやて、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ、矢車 保護対象……エリオ、キャロ、つかさ、かがみ、こなた 要注意人物……十代 ※フェイト(StS)の知り合いについて若干の違和感を覚えています。また、クローンか本物かも判断出来ていません。 ※アンデルセンが死んだことに気付いていません。また、ヴァッシュを警戒しています。 ※アンジールと自分の関係は知りませんが、ISを使ったことから、誰かが作った戦闘機人だと思っています。 ※シェルコートは甚大なダメージを受けており、ハードシェルを展開することができなくなっています。 ※ルーテシアに対し僅かに疑心を持っています。 【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反目のスバル】 【状況】左腕に裂傷、右腕欠損、疲労(大)、強い決意、深い悲しみ 【装備】SIG P220(9/9)@リリカル・パニック、ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル、スバルのはちまき 【道具】洞爺湖@なの魂、支給品一式、小タル爆弾×2@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、 インテグラのライター@NANOSING、 救急箱、医薬品一式、メス×3、医療用鋏、ガムテープ、紐、おにぎり×3、 ペットボトルの水、火炎瓶×4、ラウズカード(クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、 ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【思考】 基本:守りたい者、守るべき者を全力で守り抜く 1.スバル…… 2.チンクが目覚めたら彼女と話をする。 3.このデスゲームから脱出した後で、シャーリーに自らの命の決断を仰ぎ、それに従う。 4.シャーリー……俺は、君と一緒にはいられない…… 5.スバルを守るために、たとえ汚れ役を買って出てでも、スバルにとって最善と判断した行動を取る 6.ディエチやカレンの犠牲は、絶対に無駄してはならない 7.皆は反対するだろうが、もしもの時は相手を殺すことも辞さない。それだけは譲れない 8.ギアスの制限を確かめたい 9.戦力の確保及びプレシアの関係者を探す 10.首輪の解析を行う。 11.C.C.、クアットロと合流したい 12.ゲーム終了時にはプレシアに報復する 13.レイ、左腕が刃の男(=ナイブズ)、赤いコートの男(=アーカード)、殺し合いに乗った頭の切れる参加者を警戒 【備考】 ・ギアスに何らかの制限がかかっている可能性に気付きました。また、ギアスのオンオフは可能になっています。 ・ギアスの発動には、左目の強烈な痛みと脱力感が伴います。 ・プラント自立種にはギアスが効かないことが確認されました。 ・ギアスを使った際の疲労は命令の強さに比例すると考えています、同時にギアスが効かない参加者が他にも考えています。 ・ブリタニア軍特派のインカムはディエチからもらった物です。 ・こなたの世界に関する情報を知りました。もっとも、この殺し合いにおいて有益と思われる情報はありません。 ・「左腕が刃の男」が、既に死亡したナイブズであることに気付いていません。 ・ここにいるスバルを、“本物のスバル・ナカジマ”であると認めました。 ・レッド・デーモンズ・ドラゴンは現状では使えない可能性が高いと考えています。 ・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。ご褒美の話をどう捉えているかは、後続の書き手さんにお任せします。 ・「月村すずかの友人」は、フェイトかはやてのどちらかだと思っています。 ・シャーリーが父の死を聞いた直後から来ていることに気付きました。 【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康、若干の不安、フェイトの死にショック 【装備】レヴァンティン(待機形態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バリアジャケット(はちまきなし) 【道具】支給品一式、レギオンのアサルトライフル(100/100)@アンリミテッド・エンドライン、 スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、チンクの左腕(炭化している) 【思考】 基本 殺し合いを止める、できる限り相手を殺さない、ルルーシュを守る 1.フェイトさんが……死んだ……? 2.ルルーシュに無茶はさせない、その為ならば…… 3.こなたを守る。こなたには絶対に戦闘をさせない 4.アーカード(名前は知らない)を警戒、レイにも注意を払う 5.六課のメンバーとの合流、かがみとつかさの保護、しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。 6.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら…… 【備考】 ・こなたが高校生である事を知りました。 ・質量兵器を使うことに不安を抱いています。 ・パラレルワールドの可能性に行き当たり、自分は知らない自分を知る者達がいる事に気が付き、 同時に自分が知る自分の知らない者達がいる可能性に気が付きました。 ・参加者達が異なる時間軸から呼び出されている可能性に気付きました。 ・仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いにのる可能性に気が付きました。 ・自分の存在が、ルルーシュを心を傷付けているのではないかと思っています。 ・ルルーシュが自分を守る為に人殺しも辞さない、及び命を捨てるつもりである事に気付いていますが、 それを止める事は出来ないと考えています。 また、自分が死ねばルルーシュは殺し合いに乗ると思っています。 ・「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。 ・ルルーシュの様子からデュエルアカデミアから出て行ったのはシャーリーだと判断しています。 ・自分に割り振られた調査エリアを調べ終えました。何かを見つけたか否かは、後続の書き手さんにお任せします。 ・レヴァンティンは参加者が異なる時間軸、並行世界から連れて来られている事を把握しています。 【チーム:黒の騎士団】 【共通思考】 基本:このゲームから脱出する。 1.デュエルアカデミア内部を調べる。 2.首輪解除の手段と、ハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。 3.首輪を見つけた時には、機動六課か地上本部で解析する。 3.それぞれの仲間と合流する。 【備考】 ※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。 ※デュエルモンスターズのカードが武器として扱えることに気付きました。 ※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は守りたいもの本文参照。 ※チーム内で、以下のの共通見解が生まれました。 要救助者:シャーリー、ヴィヴィオ、十代、万丈目、明日香、かがみ、つかさ、ルーテシア (ただし、万丈目には注意が必要) 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノ、クアットロ、チンク、C.C. (ただし、フェイト及びクアットロには注意が必要) 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ) 以上の見解がそれぞれの名簿に、各々が分かるような形で書き込まれています。 Back 過去 から の 刺客(前編) 時系列順で読む Next Alive a life ~タイムリミット(前編) 投下順で読む Next Alive a life ~タイムリミット(前編) チンク Next いきなりは変われない(前編) アンジール・ヒューレー Next お昼ごはんの時間だよ ルーテシア・アルピーノ Next 崩落 の ステージ(前編) シャーリー・フェネット Next Nightmare of Shirley(前編) ヴィヴィオ Next Nightmare of Shirley(前編) スバル・ナカジマ Next いきなりは変われない(前編) ルルーシュ・ランペルージ Next いきなりは変われない(前編)
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そこは中世ヨーロッパの田舎を思わせる情景。 無人の世界には似つかわしくない畑や藁小屋。 煉瓦作りの家がまばらに立ち並び、後ろに素朴な作りの水車がチラホラと見える。 小麦畑や路地に農耕馬や牛が歩いていても全く違和感がないこの情景には、勿論そんなものがあろう筈もなく―― この風景を生命ある者として彩っているのは二人の少女のみ。 一人は金髪碧眼。一人は銀の長髪を腰まで垂らした隻眼。 共に情景に不似合いの、体のラインを強調した近未来的なボディスーツを纏い その群青の光沢を放つボディを、心地よい風に晒し―――言葉を発する事も無く向かい合う。 まるで姉妹のようなお揃いの出で立ちだが、両者の間に流れる空気は到底、そんなおだやかなものではない。 「しかし我ながら、、無茶苦茶な話だよなぁ…」 両者は未だ構えない。 半身を切った状態で軽くステップを踏む少女。 その度に、肩にかかる銀髪がサラリと揺れて背中に落ちる。 「こんな要求を二つ返事でOKするなんて、お前もどうかしてるぞ? ふふ………もっとも、」 対して直立不動のままに微塵の動きも見せない騎士。 相手の出方を待つような姿勢はしかし、恐ろしいほどに一分の隙すら認められなかった。 「腕に自信あり……こんな小っこい奴に負けるわけないとでも思ってるんだろうけどな。」 「チンク―――もし私に奢り昂ぶりを期待しているのであれば……今すぐに改めた方が良い。」 待ちの体制の騎士に対し、少女もまた距離を測り相手の初動を誘う作戦だった。 ペースを掴むべく、普段は戦闘中に決して叩かない無駄口を叩く銀髪の少女。 しかして機人に対し、騎士は静かに目を閉じ言い放つ。 その時―――突如として暴風のような風が巻き起こる!!! 風は目の前の騎士の体から爆発したかのように周囲に吹き荒れ、機人の少女の体に叩きつけられた。 「つっ!!?」 攻撃かと一瞬身を硬くする機人だったが、それは少女への攻撃を目的としたものではない。 突風のように放出されていたのはセイバーの魔力だった。 体内から噴き出すように放たれた衝撃で彼女の纏っていたナンバーズのスーツが四散し、セイバーの裸身が露になる。 「貴殿の持つ情報のみが今のところ私とマスターを繋ぐ唯一の要因。 である以上、それを逃がすわけにはいかない…… 負けるわけが無いのではなく―――絶対に負けられないのです。」 その神々しい光を放つ肢体は、まるで空より舞い降りし天使の如く。 人知を超えたナニカであると想像するに難くない様相。 そして彼女自身の青白い魔力が帯のように巻きつき、白い肌を外界から隠していく。 否、それは少女の柔肌を隠すだけのものではなく、「護る」もの―― 纏われた魔力は、先にセイバーを包んでいた青いスーツと同じ色の着衣に しかしながら凹凸の無いボディスーツとは一線を隔した、意匠を施した戦装束へと変わる。 「少女よ。私は確かに言ったぞ……我が意思を。 自分は一人の騎士として貴殿とは戦わぬ―――しかし例外があるのならそれは自分のマスターを守る時だと。 その最優先事項においてなら、自分は誓いや制約を斬り捨ててでも主のために剣を振るうと。」 そしてその上から顕現するは騎士王を守護する最強の護り。 無尽蔵の魔力で編まれた天衣の鎧。 星が散りばめられたかのように光り輝く銀色が――― 彼女の身を脅かす全ての災厄から騎士を守護するという意思を新たに顕現したのだ。 「ああ……確かに言ったな。」 「それを聞いてなお、貴殿は我がマスターを餌として使い、私に戦いを挑んだ。 ならばもはや、我が剣を振るうに聊かの躊躇もない――」 静かながら、毅然とした一喝と共に活目する騎士。 途端、抑えていた体内の魔力が青白い柱となって天に昇り 先ほどの突風すら涼風に感じるほどの衝撃が周囲に撒き散らされたのだ! 「う、わっ……!!?」 暴風だけで少女の小さな体は浮き上がり、吹き飛ばされそうになる。 普通の人間ならば場に踏み止まる事すらかなわず無様に飛ばされていただろう。 今ここに顕現する――――騎士王セイバー。 圧倒的な力で大ブリテン王国を統一した最強の剣士が少女の前に立ちはだかった。 「覚悟して貰うぞ――チンク」 (…………っ!!) これが先程までヨタヨタと気絶し、弱々しく床に伏せていたものの戦意であろうか? 高町なのはをして圧倒した騎士王の戦場を支配する闘気が――― まるで何倍にも凝縮された重力の如く場を覆い尽くす。 (危険なのは百も承知だが……ここでお前に隠居でもされたら困るのさ。 連れて帰るぞ……変更はない。今更、引けるものでもないしな!) だが、だからと言って引き返せるはずが無い。 騎士が語った通り、場を抜き足ならぬ領域へ誘ったのは他ならぬ自分であったのだから。 言うまでもないが、確かな勝算があるわけではない。 この埒外の相手に対し、そんなものがあろうはずもなく――ハイリスク・ハイリターン…… 自分らを取り巻く暗雲は重く濃く、どれほどに逃げても相手は広大な宇宙全域に網を張る相手。 やがては包囲され、捕縛され、悪くすれば撃沈されるだろう。 かといって交戦するほどの戦力はない。 絶望的に何もかもが足りない。 そんな現状を取り払うには安全策ではもはや足りなさ過ぎる。 危険を顧みずに踏み込んで、極上の成果を上げ続け、積み重ね、積み重ね―― その果てにある奇跡を掴むより他に、自分達が生き残る道はないのだ。 例えそれが、傍から見れば無謀な賭けに望む愚か者の姿に見えたとしても――― ―――――― 冷静に冷徹に目の前の少女の戦力を測っていた最強無比の剣士。 狙撃にしては近い――― 近接の間合いにしては遠い――― 敵のそんな中途半端な位置取りから、セイバーをしてこの相手の得意な距離、闘法を見極める事は出来なかった。 軽いステップで距離を測っている以上、そこが彼女の得意とする距離である事は明白なのだが――― ―――何かを誘っているのは間違いない…… だが先に自分と壮絶な戦いを演じた魔導士と比べると、彼女はあまりにも隙だらけで威圧感も遥かに少なかった。 初見の相手である以上、未知の技術での迎撃を受ける可能性は常にあるだろう。 だが今、目の前に立つ少女の呼吸、身のこなしから、こちらの本気の剣を受けて反撃するほどの使い手には到底見えない。 あの小さな体躯で、しかも手には何の得物も持っていない。 もはやこの間合い、高町なのはのように空を飛べるとしても浮く前に叩き落せる。 絶対に逃がさない間合い。 それを更に縮めるべく、摺り足でジリ、ジリ、と近づくセイバー。 二人の距離が徐々に、徐々に―――縮まっていく。 (あと数歩、間合いを詰めて……………仕掛ける。) 不可避の剣はその柄を程よく脱力したセイバーによって握られ、剣先は地に向けて下げられている。 右下段に構えた騎士の攻撃重視の姿勢のままに――― 聖剣は、数秒後に来る剣戟の爆発を待ち侘び、その期待にうち震える。 対するチンクもまた、英霊を前にして臆する姿勢はない。 相手の戦闘力を考えれば、それは驚異的な肝の据わりようである。 (頼むぞ……スティンガー!) ともあれ、ここまで来たらやる事は一つだった。 己が武器に必勝の願いを賭し、それを最後にチンクの表情が消える。 人懐っこい笑みを称えていた顔は能面のように無機質に 開かれた片目が、まるで闇夜に光る猫のように金色に光る。 それは機人の全てのシステムが戦闘モードに移行した証――戦闘機人が本気になった証! (む……) その様子が、摺り足で間を詰めるセイバーを数秒ほど押し留める。 何かが………来る。 踏み込むその先には間違いなく、自分を狙う彼女の牙が待っている。 彼女の第六感が――そう告げていた。 もはや両者の戦意の爆発は数秒後、そしてその一瞬で勝負は決まるだろう。 この間合い、長期戦はあり得ない。確実に一手で相手を戦闘不能に出来る距離。 故に最後に――― 「お前の強さを信じてるぞ英霊……だから1撃目で死ぬんじゃないぞ!」 死なれては困る――― この一撃で相手を打破するが目的なれど、自分が見初めた英霊がこの一撃で死す程度の不甲斐ない戦士であってはならない。 そんな相反する想いを込めて少女がその口を開いた。 「その言葉――私の同様の心配が杞憂である事を信じましょう。」 それを受けて騎士も最後の礼節を尽くす。 目的のため、死なせたくないのはこちらも同じという意図のみ伝え それを以って――両者最後の邂逅が終わる。 「「―――いざ」」 ―――闘いが始まる! セイバーの剣気を受け、両者の間の空気が一気に凝縮され――ぐにゃりと曲がる! 達人は抜く時、自分の気を相手に見せないという。 だが騎士の姿はそんなセオリーをまるで無視した剥き出しの剣! 相手に抜く気を存分に見せながらなお、防御も回避も許さず 一刀の元に斬り捨てるのが戦場にて最強と謳われた彼女の剣である! 故に今宵も正面から――ぐん、と! まるで虎や獅子が獲物に襲い掛かる予備動作の如く腰を落とし、前肢のバネを極限までねじり込み その一歩を―――――――― ―――――― 「あ………あれ?」 ―――――――――――踏み出、す…………? …………………………… その刹那の一瞬にて――――異変は起こった。 まさに今、神速の踏み込みを以って敵を打破する筈だったセイバーの表情が怪訝に染まる。 その不測の声。それは隻眼を不気味に光らせて 射抜くような視線を向けて対峙していた少女の口から漏れたもの――――? 「お、おい……!?」 今、尋常に剣を交えようと意思をかわした目の前の少女が、突如にして上げた突拍子の無い声。 それは誰かと話しているようでいて―――決して騎士に向けて上げられた言葉ではなかった。 「ま、!? ちょっと、何をっっ!??」 ナニカに対しての不平?不満? そんな意図と取れる言葉を発する少女。 もはや彼女は隙だらけ。騎士ならば一足刀に斬り伏せられる。 で、ありながらセイバーは怪訝な表情を浮かべたまま踏み込まなかった。 その躊躇が、結果的に―――― 「………っ!?」 立ち尽くすセイバーの眼前で、何やら会話している少女の姿。 その全身に一瞬、何かの映像にかかるようなノイズが走る。 息を呑むセイバーを尻目に、確かに目の前にて自分と相対していた少女の姿がまるでホログラムのように――現実味をなくし、その存在感を失わせていく。 初めは足から、胴を上がり、肩、頭と――― 徐々にその質量を虚空に消し去っていき…… 「ま、待て!」 事ここに至ってようやくその光景の意味するところを察したセイバーがダァァン――、!と 地雷の着弾じみた爆音と共に地を蹴り、少女に向かって飛ぶが―――― ――― 全てが手遅れだった ――― 閃光の速さで駆け抜ける騎士! 稲妻の如き剣閃が機人の少女の胴を薙ぎ払い、勢いのままに斬り抜けたセイバーは 少女の背後に抜けて、ザザザザ!と、両の足で地を食み 速射砲のように放たれた己が身にブレーキをかけて向き直る! 世の達人ですら絶句する神域の抜き胴。 その凄まじき一閃は――――― しかし騎士の両腕に何の感触も残さない………… 「に、逃げただと……バカな…」 そう、騎士の薙いだ少女は既に残像。 セイバーの不可避の剣は少女が元いた空間をむなしく切り裂いたのみだった。 転移…? 霊体化? いかなる手段かは定かではないが、ともかく――― 騎士と機人の闘いは、今まさに一合を交える直前 少女の突然の離脱によって不戦、という結果を残したのだった。 ―――――― 唖然とする騎士。 思考に湧き上がる疑問。 彼女は間違いなく自分と戦う気だった。 あの戦意と決意、ひしひしと伝わってくる想いは紛れもない本物で―― あそこで臆病風に吹かれて背中を向けた、など考えられない。 (ならば外部からの干渉……? 彼女の仲間が何らかの形で介入したか?) 寸前でのチンクの焦燥と誰かと言い争う様子から、そう考えるのが妥当なのかも知れない。 だが………しかしそんな事は今はどうでもよかった。 目の前の大魚を逸した事に変わりは無く、騎士の顔に浮かぶのは――― 「………く…」 猛烈に湧き上がる悔しさと後悔のみ―――血が滲むほどに唇を噛むセイバー。 マスターに繋がる唯一の手がかりを――みすみす逃した…… (――倒し得た…) 彼女にして信じられないほどの不手際。 向き合ってすぐに、360度どこからでも斬り込めると確信した。 その気になれば――コンマの位で秒殺出来たかも知れない。 だが、勝利の確信から一足刀に飛び込んで敵の策に嵌る可能性も捨てきれない。 ――― 万に一つの負けも許されない ――― その思いから慎重を規し、万全を以って臨んだ…… (その結果が―――このザマか……!) 己が不甲斐無さに肩を奮わせる騎士王。 その剣先が後悔に震えている。 余計な事ばかり考えていた。 高町なのはは自分の剣戟を食らいながら立ってきたが、それは後の談話で魔導士の纏う神域の法衣によるものと聞かされた。 もし生身であの当身を受けていたら、とてもじゃないが立ち上がれなかったと。 ならば目の前の少女もまた同等の防御で護られているのだろうか? 機人というからには、見た目があれでも並の人間より遥かに強靭なのか? ――そんな事ばかり だが、そうあって欲しいと思った。 何せインパクトの瞬間、膨大な魔力を叩きつける自分の剣はいわば炸裂弾のようなもの。 仮に断ち切れなかったとしても、普通の人間がそれを食えば内臓破裂、肋骨粉砕は必至。 華奢な少女の肉体など、ひとたまりも無いだろう。 殺してしまっては元も子もない 情などは無いが…… この娘が自分の剣に叩き伏せられ、苦しみのたうつ姿を見たくないなどという惰弱な情などは決して……無い筈だ。 騎士――否、幼子を手にかける事に対しての人として当然の躊躇そんなものは サーヴァントの使命、マスターの命を最優先事項に置く自分の前には何の影響も与えない。 そうだ…情など ―― ソンナ、ヨケイナコト、バカリ、カンガエテイタカラ、―― 知らず剣が遅れた……遅らせたのだ。 目元に己が手の平を当て、言い知れぬ後悔に身を焦がすセイバー。 もはや、あれこれと言い訳などしてもしょうがない。 逃がした原因など分かりきっているのだから。 サーヴァントとして非常な剣を振るうなどと猛っておきながら――― 「躊躇って……いたのか。私は―――」 どこかほっとしている自分がいる事を、もはや誤魔化しきれない。 あの屈託の無い笑顔が苦痛に歪み、倒れ付す姿を見たくなかった。 あの笑顔が、理不尽に対して涙を滲ませていた顔が―― 自分に期待を寄せてくるあの顔がチラついて踏み込みが遅れた。 そう、この不逞は全て………情にほだされた結果 「シロウ……済まないッ」 慟哭めいた声と共に―――― 騎士は今宵、誰の血を吸わせる事のなかった聖剣で虚空を力任せに横に薙いだ。 バォウ、という空気を引き裂く音と共に風圧が真空の刃となって 10数mは離れた家屋の壁に一文字の亀裂を作る。 そのやるせない叫びを最後に、ヨロヨロと後方の壁に寄りかかってしまう騎士。 情けなく歪んだ顔を隠すように当てていた右手が前髪をくしゃりとワシ掴みにする。 長き放浪の末に接触してきた得体の知れない怪異の首謀者の一味。 今後の対応を冷静に考え、備えるという思考は、今のセイバーの気持ちを抑える何の手助けにもならなかった。 果たして今宵の記憶は、消えずに残ってくれるのか―― 予兆なく現れる肉体と精神の変調―― 自分は、己が足でマスターの元に辿り着けるのか―― 戦場で不敗を誇ったその力は今の騎士の不安を消す手助けにすらならない 苦悩と不安に揺れるその薄緑の瞳が…… 誰もいなくなったこの地にて空をむなしく見上げるのみ。 高町なのはと、ナンバーズ・チンク――― 異世界にて出会った奇しくも敵味方に分かたれて相争う友二人。 この両者との出会いが彼女――― 揺れ動く存在の騎士王に何をもたらしてくれるのか――それを知る者は今はまだ……… ―――――― 次元の狭間にて――― 鈍色の光沢を放ちながらたゆたい胎動する、此度の神の遊戯の心臓部となるであろう揺り篭。 「うおおおおおッ! ぶわあああああッ!! くあああああああああああッッ!!!」 その大広間で今―――――超特大の雷が落ちた。 「!!?? ~~~~~~~~~~~~~~~……」 顔をしかめ、両の耳を手で塞いで人口の鼓膜がクラッシュするのを何とか防御したのは 戦闘機人の5番目の姉妹―――チンクである。 ただでさえ隻眼の彼女の空洞になった眼穴に響く眼鏡女の春雷。 脳を直撃した音撃のダメージで暫くうずくまっていた彼女であったが…… そのまま、落雷の主を憮然とした表情で睨みつける。 他ならぬ目の前のメガネが、強制転送でセイバーとの果し合いに文字通り水を差した張本人であった。 その怒りはこんな一喝程度では到底晴れるものではない。再び、二人の姉妹は睨み合う。 「前から言おうと思ってたんだけど……お前さ。 普通に姉みたいな態度とってるけど稼動年数は私の方が長い事を忘れてないか?」 「あらあらいえいえ! それならぁ! 駒にいらない事をベラベラベラベラ漏らしまくって 挙句、いきなりケンカふっかけて!これをバカと言わずして何て言えば良いのか! 若干長い稼動年数で学んだ知識で是非とも教えて頂きたいものですわねぇ!!」 激哮したかに見えた眼鏡少女は再び憎憎しげな表情を取り戻し、いつもの人を食った言い回しに戻る。 「ふざけるなよ……肝心なところで横やり入れて 言いたい事はそれだけか? もう少しで……」 「もう少しでガジェットの部品にもならない、小っこいスクラップの出来上がりでしたわ! あのね、チンクちゃん……あそこで私が拾わなかったら、どうなっていたか分かりますわよね?」 「聞き捨てならないな。私が簡単にやられると思うのか?」 「はぁ?」 静かな怒りを抱いている5女に対し、奇妙なモノを見るような目で一つ下の妹を見るクアットロ。 「いや、やられるでしょ……しかも瞬殺。」 「なんだとぉぉぉおおおおおおお!!!!」 「チンクちゃん? ついには計算も出来なくなったのかしらん? あの英霊の馬鹿げたスペックを見て、何をどうすればそんな寝言が……」 「私はまだ見て無いんだよッッ!!」 「あらそういえばそうでした♪」 切ない叫びをあげるチンクである。 正確なデータなど彼女が望むべくもない。 少女は―――見ていないのだ…… あのSランク魔導士と剣の英霊の凄まじい激戦を。 その後の黄金の英霊を絡めた神代の光景を。 「ああ、そうだよッ!!! お前らがモニターと睨めっこしてた時…… 私は豆腐と睨めっこしてたんだよッ!」 プルプルと震えだすチンク。 可哀想なモノを見るような4女の目に晒され、身も心も寒さが止まらない。 「豆腐と、睨めっこしてたんだよぅ……」 大事な事なので二回言った。 サーヴァントのデータをまるで収集できなかった代わりに豆腐についてちょっと物知りになった五女。 それを誇りに抱き、達観するには―――彼女は些か若すぎた。 「くっそーーーーー!! 何で私ばっかりこんな目に!?? だいたい英霊の懐柔が上手く行かなかったのもあの神父の爆裂オーダーのせいだぞ! 無茶ばっかり言いやがって!! 何だよ決め手はスーって!? 意味わかんねーよ! 私に分かる言葉で書けよ!」 「まあまあ……あとでモニターされた戦いを穴が開くほど見てくれば宜しいですわ♪ もっとも戦闘の余波だけで計器の大半をブチ壊してくれたので マトモな映像にはなってないでしょうけどぉ……プ、ククク…」 手に持っていた「綺礼スペシャル中華の極意」と日本語で記された読本を床に叩きつける少女。 「チンク……言峰様が、」 しかして盛大に毒を吐いていた少女の肩がビクンと震える。 「……お呼びよ。首を長くして待っていたと伝えてくれって……チンク?」 部屋の中央で盛大に猛り狂っていた小型独眼竜が途端 隅っこで小さくなり頭を抱えてガタガタ震えている。 「ウ、ウーノ……言峰は?」 「いえ、ここにはいないわ。 中心部で博士と談話中。 博士もよっぽどあの方が気に入ったのね………あと、お帰りなさいチンク。」 「うう……ただいま。」 「成果はどうだったの?」 「渾身の一品が出来た……英霊の舌すら唸らせる必殺の一撃だ」 「情けないですわねぇ♪ 仮にもナンバーズの一人があんな人間に振り回されて……」 「言ってろ……お前はあいつと話した事がないからそういう事が言えるんだ」 血色の良いはずの幼女の顔に青い線が二本、三本。 ゲンナリしながら語りだす悲劇の眼帯である。 「あの男と話してると敵の懐だったミッドチルダでさえ優しい世界に思えてくる…… 一言一言が泥のように絡み付いてきて、そりゃあ心を削るんだ…… いつぞや食らった振動破砕の百倍は足に来る……私、案外限界近いかも知れないハハ、ハ… ああ、ああ……やだよ……行きたくないよ……誰か代わってくれよ……日替わりでもいいからぁ」 「私はシステム周りとか色々あるから」 「右に同じですわ♪」 「薄情者どもがッ!!!地獄に堕ちろ!」 だー、と片目から滝のような涙が止まらない少女が盛大な罵声を叩きつけ、厨房へ消えていく。 途中、ガンという盛大な音は、ラボの取っ手に頭をぶつけた音である。 その哀愁漂う後姿を見送る長女と四女が、流石に哀れに思ったのかこめかみを抑えながらかぶりを振る。 「あんな無礼な客、とっとと殺してしまえばよろしいのに……」 「博士の客人よ。勝手な手出しは出来ないわ」 「あらぁ!バレなければオーライだと思いますけどぉ♪」 「貴重な情報源よ。まだ消すには惜しいわ」 長女がそう言い終わる時―――パタパタと通路から再び誰かが駆けてくる音がした。 やがてヒョイっと出入り口から顔を出したのは厨房へ向かったはずのチンク。 「言うの忘れてた」 「……何ですの?」 「トーレに伝えておいてくれ。あまり一人で抱え込むなって……」 その一言で、場が何とも言えない神妙な空気になる。 それはドッグで未だ眠る、先のミッションで大破した三女と七女に向けた言葉―― 「戦闘機人の先陣、私とお前でツートップだ。 今までも、そしてこれからも………だから、」 「早く行きなさいよ。おちび」 シッシッという視線を投げつけるメガネ姉に対し、べーと舌を出して足早に駆けて行く隻眼少女である。 「まったく。あの子と来たらいつまで立っても……」 「ふふ…」 「笑い事ではありませんわ。 また前回と同じ鉄を踏むところでしたのよ?あのおバカさんは……」 ―――前回 言わずと知れたJS事件。 ナンバーズ5番目の個体である少女は戦闘時の冷徹さと裏腹に、その性格は気さくにしてちょっとお茶目で人情に厚い典型的な姉気質だ。 同期の少し恐くて取っ付きにくい三女トーレとはまさに対照的な姉であり 故に計画の都合上、矢継ぎ早にロールアウトされた妹たちの世話役として奔走していた。 姉の特筆すべきはそのIS――― ランブルデトネイター(金属に爆発属性を付加する特殊能力)とスティンガー (チンクの愛用する投げナイフで忍者の使うクナイに近い) それを遠隔操作にて範囲内の至る所に出現させ投擲するオーバーデトネイションは 虚空より出でて敵の急所に直撃させ爆砕する、ナンバーズ内でも最強の殺傷能力を誇る、まさに必殺の技だった。 先の言葉である「ツートップ」に偽り無し。 トーレが戦闘力で随一ならば、敵を仕留める事にかけてはこのチンクは文句なしのトップキラー。 戦闘能力でなく殺傷能力に秀でた5女の力は、もし彼女をサーヴァントのクラスに当て嵌めるなら間違いなくアサシンに該当する。 戦闘力で勝る機動6課に対し、戦力を削る切り札になり得たのは、実はこの小さな暗殺者であったかも知れないのだ。 故にそのチンクが最終決戦でドッグ入りした事実が――戦況を大きく変えたといっても決して過言ではない。 「チンクはあれでいいのよ」 「お姉さまはチンクちゃんに甘すぎです」 「確かにあの子は愚直で、やきもきさせるところがあるわ。ロジックよりも感情を大事にしてしまう事もね。 決して前衛向きでないというのに、危機に陥った妹の盾になって飛び込んだり…… 格上相手に一騎打ちを挑んで片目を潰されたりね」 だが、その戦い方、その在り様で、彼女は局のSランク魔導士を屠っている。 あのミッド世界において最強と謳われし、オーバーSランクのストライカークラスをだ。 それがこの世界において機人こそ最強という証明でなくて何か? ナンバーズの道を、身を削って示した彼女に妹からの羨望が集まったのは言うまでも無い事だった。 「たいした美談ですわ……まあ、そこまでは私も認めております。」 だが彼女とほぼ同時期に稼動した四女クアットロはこうしてチンクと何かと対立する事が多々あった。 仲が悪いというわけではないのだが……信条の違い、そしてライバル心もあったかも知れない。 「でも、その後がよろしくありませんわね。 戒めだか何だか知らないけれど敢えてその片目を治さないという選択…… 戦力の減少を考慮においてなお、断行する、その行為に何の意味が? そしてその向こう見ずな戦法で6課の下っ端相手に大破。 隊長陣を倒せる武器を持つあの子が結局、最終決戦には出撃できないという無様を晒し……その二の舞を今回また起こす所でした」 智謀を旨とするクアットロにとっては奇跡の勝利、予定外の偶発的な金星など扱いにくいだけだ。 求められるのは己が手で掌握しうる堅実で確実な勝利のみ。 我が身を省みぬ勝利も自己犠牲も蛮勇も、彼女からしてみれば匹夫の勇に過ぎない。 クアットロの頭の中に思い描かれていたシミュレーション――― それを広間の機器に次々と打ち込んでモニターに出す。 もし前回、聖王とカチ合ってる最中のエースオブエースに トーレとセッテに手こずるフェイトに、前線に出た妹の部隊に 数十、数百のIF……あらゆる可能性を示唆し、どこでもいい。 チンクをサポートにおけたなら……確実に敵の一角を崩していたであろう事を示す。 そこから開ける突破口によっては結果は全くの逆になっていたのである――― 「………」 その様子に不覚にも気圧されてしまう長女ウーノ。 腕を組んで眼鏡をくいっと直し超然と立つ4女は、まるで自分に代わって妹の指揮を任せても遜色ないほどの威厳があった。 そして自分に臆する事無く示したこれらのデータには一切の穴が無く、反論の余地もない。 (この子はこの子で堀の中でイヤというほど反芻してたのね……あの負けを。 敗北の原因と改善策を何度も何度も……) 長女の顔に微笑が浮かぶ。 「貴方も……変わったわ」 「え?」 優しく笑いながらそんな事を言う長女に対し、素っ頓狂な声をあげてしまう眼鏡の少女。 続いて、拳を握り、熱っぽく語っていた自分の姿が急に恥ずかしくなり、そのレンズの下の頬が赤く染まる。 どんな憎憎しげな風体を装ってもクアットロは、この長女だけに逆らえない。 眼鏡で隠した、赤くなった顔をあらぬ方向に向けて言う。 「姉さま……私だってバカではございません。 遊べるものならいくらでも遊びますけど、状況がそれを許さぬ以上 シビアにならざるを得ない……そういう事ですわ」 「うふふ」 「……笑わないで下さい」 十分だ―― 長女が満足気に頷く。 密かに心配していた―――心の隅で懸念していたこの妹、ナンバーズ4の仕上がり具合を。 ―― クアットロの後遺症 ―― 一番酷くやられたのはトーレでもチンクでもなく、他ならぬこの四女だった。 そのダメージやトラウマやショックがどのくらい残っているかが心配だったのだが この充実ぶり、変わらぬ不遜の表情を見て取ったウーノは―― 「じゃあここ、お願い出来る? 私もやり掛けのプラン作成あるから戻るけど。」 「あら。監視くらい片手間に出来ますわ。 姉さまこそ私に何か手伝える事はございますか?」 「大丈夫よ。ありがとう」 そう言って上の管制室に戻っていく。 お疲れです~と手を振って送り出す4女。 チンクとの言い合いで騒然としていた広間に静寂が戻る。 この人数で使うにはあまりにも広すぎる母艦。 残された4女が、一人思慮に耽るのを―――邪魔するものは何も見受けられなかった。 ―――――― QUATTRO,s view ――― ――――明らかに出しゃばり過ぎでしたわ ああいった戦術や表の問題はむしろウーノ姉様の管轄。 自分が出すぎた進言をするべきではない。 姉が戦略と戦術を駆使するジェイルスカリエッティの表の頭脳ならば、自分は謀略と撹乱を旨とする裏の頭脳なのですから。 故に私はもっと、こう、傲岸不遜でなければなりませんわね。 常に余裕と嘲笑を絶やさず、命が踊り跳ねる戦場にて虚と実を遊ばせるような。 ―― 自分は幻惑の策士 ―― 敵を嵌め、クモの巣に絡まった蝶をいたぶり殺すが如き残虐さと陰湿さを以って 相手を弄ぶ事だけを考えていれば良いのです。 姉妹にそれぞれ与えられた役割の中で、それが自分に与えられた役目。 ナンバーズ・クアットロは……死番を任されし悪の華 姉妹の中で最も狡猾で、最も冷酷で、最も人から嫌悪されなくてはならない――― ………………… 「……………ふ、」 確かに……承知しています。 そう。考えられませんわ…… 自分の役割から大きく逸脱してまでウーノ姉様の領域を犯し、食い下がる自分など。 だけど……… 正直に言うと―――― 今回はその度を越してでも――― ――― 勝ちたい ――― 負けたくないのです……私は。 この新しい母艦に来てから、自分で認識出来るほどの体内のAIの微細な変化…… 恐らくそれをさせているのは――― ……………………… ―――――ウーノ姉さまは優しい 私に何かの後遺症がないかと、ああして気を使ってくれています。 戦闘部隊に比べて地味な縁の下の力持ちに徹している貴方ですが、姉さま無くして戦闘機人は動かない。 博士の思考を受け、最適な戦術を立て、機人を指揮するのは、やはり姉さま以外には出来ない事。 そう、貴方はとても優秀です。 そしてよく気がつく――― 「は、ふふ」 心配しないで下さいませ。 姉さまの懸念は―――――見事、 ――― 的中です ――― 「はは、あはははは……♪」 私はもう……… 壊れていますの――― ―――――― ―― 見つけた ―― ひ、あああああああ……… ―― ディバイィィィン……バスタァァァァァァ!! ―― い、いやあああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??? ―――――― 「ふ、ふふふ………あははははは、はははははは………」 脳裏に浮かぶは最後の光景。 ズキン、ズキン、と傷む頭を抑えながら 私はおかしくっておかしくってしょうがなくて――――無人の広間で一人哂う 最も人から恐れられ、忌み嫌われなくてはならない自分が 恐怖と絶叫にその身を支配され―――悪魔の砲撃の一薙ぎで陥落した。 「ママ、なのはママ………くく、く……ふふ…… いい気なものですわねぇ……アクマの分際で 気まぐれに拾った過去の残骸相手に家族ごっこ………」 この広い宇宙での逃亡生活――― もう二度と会えないかと思ったけれど……… お早いサイカイ、嬉しく思いますわ。 働き者で大変結構――――ふふ、あはは♪ そう、あれほどの絶望を受けて―――― どうして笑っていられましょうか? 遊んでなどいられましょうか? この憎悪………この殺意……… 溢れて狂ってしまいそうな負の感情を昇華するためならば 己が役割など、己がスペックなど、いくらでも逸脱して見せましょう。 姉妹の絆すら犠牲にいたしましょう。 遊びなど一切介入しないシビアな心を持たなければ―― でなければ………… ――― この復讐は果たせない ――― 英雄王との対戦では、あの悪魔の不甲斐無さについ声援などを送ってしまいましたけれど――― 「あんな得体の知れないモノにあっさりと殺されるなんて…… そんな事が許されるはずがありませんわ………うふふ、ふふふ」 一人でいると、情欲と狂気に駆られた妄想に身を焦がす時間が長くなってしまいます。 さて――今日はアクマをどんな方法で殺しましょうか♪ 頭から刻みましょうか 足の指から落としましょうか 長い時間をかけて一寸刻みの肉片にした後 栗色の毛髪に塗れた肉塊を貴方の娘に見せて これがママよぉ♪って言ってあげましょうか 「貴方が苦痛と絶望に泣き叫ぶ声………早く聞きたいわぁぁ♪ く、ふふ………アハハハハハハハハハ、アハハハハハハハ」 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ……………………………… ―――――― ―――――― 少女の歪む口元から独りでに漏れ出る哂いは、抑え切れぬ狂気によるもの――― 初めは静かに やがては耳を削るように ヤスリで魂を削られているかのような狂笑となって 大広間にいつまでも――――静かに響き渡っていた。 前 目次 次